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東京地方裁判所 平成12年(ワ)3691号 判決 2000年7月28日

原告

和田いく美

被告

千葉正良

ほか一名

主文

一  被告千葉正良は、原告に対し、金三四三八万六一八四円及びこれに対する平成一一年一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告大東京火災海上保険株式会社は、原告の被告千葉正良に対する判決が確定したときは、原告に対し、金三四三八万六一八四円及びこれに対する平成一一年一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを三分し、その二を被告らの、その余を原告の負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告千葉正良は、原告に対し、金五〇六九万五〇九〇円及びこれに対する平成一一年一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告大東京火災海上保険株式会社は、原告の被告千葉正良に対する判決が確定したときは、原告に対し、金五〇六九万五〇九〇円及びこれに対する平成一一年一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用の被告ら負担及び仮執行宣言

第二事案の概要

一  争いのない事実等

1  事故の発生

(一) 日時 平成一一年一月一三日午前七時ころ

(二) 場所 横浜市金沢区泥亀二丁目一四番先交差点(以下「本件交差点」という。)内

(三) 被告車 被告千葉正良(以下「被告千葉」という。)が保有し、運転する普通貨物自動車

(四) 被害者 和田富江(昭和五年三月一八日生、六八歳。以下「富江」という。)

(五) 事故態様 富江が本件交差点を横断中、右折進行してきた被告車が富江に衝突し、富江は死亡した(以下「本件事故」という。)。

2  被告らの責任

被告千葉は本件事故によって発生した損害を賠償すべき運行供用者責任を負い、被告大東京火災海上保険株式会社(以下「被告会社」という。)は被告千葉との間で締結した自動車保険契約に基づき被告千葉が負うべき損害賠償額と同額の金員を支払う責任を負う。

3  原告の相続

原告は富江の養女である。

二  争点

本件の争点は損害額の算定である。

1  逸失利益(請求額二一八八万七〇九〇円)

富江の平成一〇年分の稼働による収入は一〇四万円、本件事故時に受給していた老齢厚生年金収入は年額二一七万七二〇〇円(合計三二一万七二〇〇円)である。六八歳の女性の平均余命を一七年間、稼働可能期間を八年、生活費控除率を三〇パーセントとして算定すると以下のとおりとなる。

三二一万七二〇〇円×(一-〇・三)×六・四六三+二一七万七二〇〇円×(一-〇・三)×(一一・二七四-六・四六三)=二一八八万七〇九〇円

2  慰謝料(請求額 二〇〇〇万円)

3  葬儀費(請求額 一二〇万円)

4  原告固有の慰謝料(請求額 三〇〇万円)

5  弁護士費用(請求額 四六〇万八〇〇〇円)

第三当裁判所の判断

一  損害額の算定

1  逸失利益 一四五八万六一八四円

(一) 基礎収入

基礎収入のうち、稼働による収入は一〇四万円、年金収入は二一七万七二〇〇円として算定するのが相当である(甲五の1、2)。

(二) 算定期間

本件事故当時の富江と同年齢の平均的な女性の余命を考慮し、年金収入は一七年間(ライプニッツ係数は一一・二七四)を、稼働による収入は右一七年間のうちの当初の八年間(ライプニッツ係数は六・四六三)をもってそれぞれ算定するのが相当である。

(三) 生活費控除率

富江の養女である原告は、既に富江の元から離れて独立して生計を営んでおり、富江の年齢などからすると、その稼働による収入のうち相当額が自らの費消に当てられるものと考えられること、年金が受給者の生活維持のために主として費消されることなどを勘案し、当初の八年間については五〇パーセント、残りの九年については六〇パーセントとして算定するのが相当である。

(四) 計算式

(一〇四万円+二一七万七二〇〇円)×(一-〇・五)×六・四六三+二一七万七二〇〇円×(一-〇・六)×(一一・二七四-六・四六三)

=一〇三九万六三八一円+四一八万九八〇三円

=一四五八万六一八四円

2  慰謝料 一四〇〇万円

富江の年齢や家族構成のほか、後述するとおり、原告固有の慰謝料を認めたこと、本件訴訟前に原告は富江と内縁生活を営んでいた清水顕に対し、被告らから受領する損害賠償示談金のうち固有の慰謝料名目で三五〇万円の提供を申し出ていた経緯や、富江が右清水と婚姻せずに夫婦生活を送っていたこと(富江が内縁の妻であり続けたことは、右清水及び富江が日常生活上は実質的な夫婦ではありつつも、死亡に伴って発生する法律関係を互いには及ぼしたくないとの意思の顕れと解され、富江の死亡に伴って発生する損害賠償についても、それに伴う損害賠償請求の主体は専ら原告とするのが故人の意思にかなうものと解するのが合理的である。したがって、右清水が被告らに対して固有の慰謝料として損害賠償請求をするとしても、右金額を超える慰謝料を認容すべき事情を認定するのは困難である。)を勘案し、右金額をもって相当と認める。

3  葬儀費用 一二〇万円

人は遅かれ早かれ死は免れず、それゆえ葬儀関連費用の支出も避けられないのであるから、本件事故によって死亡した富江のために支出した葬儀費用全額をもって損害と認定することはできず、一二〇万円をもって相当と認める。

4  原告固有の慰謝料 二〇〇万円

原告が富江の唯一の相続人であり、今後養女として富江の祭祀をとり行う立場にあることなどを考慮し、固有の慰謝料として右金額をもって相当と認める。

5  小計 三一七八万六一八四円

6  弁護士費用 二〇〇万円

本件訴訟の経過や進行状況、事案の難易度等を総合すると、被告らに損害として負担させるべき弁護士費用としては、右金額が相当である。

7  合計 三三七八万六一八四円

二  結論

よって、原告の請求は、三三七八万六一八四円及びこれに対する平成一一年一月一三日(本件事故日)から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 渡邉和義)

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